キムチの歴史〜キムチって何だ!
キムチはご存知の通り韓国の伝統的な保存食品で、世界五大健康食品のうちの1つです。
また、日本で最も売れている漬物であり、キムチの消費量は韓国に次いで日本が2位と、我々にとって身近な食品です。
しかし、その歴史についてはあまり知られていないようです。
特に、今の真っ赤なキムチがいつどこでどのように出来上がっていったのか、韓国でもあまり知られていないようです。
1.そもそもキムチとは
結論から言いましょう。
キムチとは野菜や魚介類を発酵させた保存食品、つまり発酵食品です。
作り方は地方によって、また南北でも違いますが、
主に薄く塩漬けした白菜やネギ、ニラ、大根など野菜をヤンニョム(唐辛子、ニンニク、生姜、ネギ、ニラ、大根、ニンジン、イワシやイカナゴなどの魚醤、イワシやアミの塩辛などで作ったもの)に漬け、発酵させます。
また、朝鮮民主主義人民共和国では新鮮な生のスケソウダラを加えたり、薄い塩水や牛肉のスープを加えて発酵させることもあるようです(実際、現地のキムチは汁が多いです)。
また、当然ながら各家庭や店によってもレシピは多種多様です。
ですが、様々な材料を発酵させて作るという点で共通しています。
2.キムチの発祥
キムチの起源については我々が想像する以上に韓国においてはセンシティブな問題で、特に現在問題になっているのが中国による起源説。
2010年代以降、キムチを中国文化だとする官製プロパガンダが積極的に行われるようになります。
もちろんこれはとんでもない話で、キムチは歴然とした韓国・朝鮮の伝統文化です。
しかし、遠く起源を辿れば中国に行き着くことは否定出来ません。
例えば韓国の食文化について最も優秀な学者といわれた故・李盛雨(イ・ソンウ 1928〜1992)、張智弦(チャン・ジヒョン 1928〜)、尹瑞石(ユン・ソソク 1923〜)らは、異口同音に中国から朝鮮に、さらに朝鮮から日本に漬物が伝わったと主張しています。
しかし、中国由来の漬物と現在のキムチを結びつけてキムチ=中国文化とするのは文化の簒奪以外の何物でもありません。中国政府による官製プロパガンダは所詮感性プロパガンダに過ぎず、文化的帝国主義との批判を免れ得ないでしょう。
それがまかり通るなら日本のラーメン、例えばラーメン二郎も中国文化という事になってしまいます(まぁあんなジャンキーなものの「起源」を中国が欲しがるとは思えませんが)。
今の朝鮮半島で一般的なキムチは間違いなく韓民族(朝鮮民族)固有の文化といえます。
3.いつからキムチは赤くなったのか
私たちがキムチと聞いてまず思い浮かべるのは何といっても真っ赤な白菜キムチや大根のキムチでしょう。
ですが、古来から唐辛子が使われていた訳ではありません。
朝鮮半島にいつ唐辛子が伝来したのかは諸説ありますが、1597年の秀吉軍による朝鮮侵略の際に、既に日本に伝わっていた唐辛子が朝鮮半島に持ち込まれた、という説が最も有力なようです。
それから100年ほどはその見た目や味などで忌避されていましたが、次第にキムチをはじめ料理に持ちいられるようになりました。
今日私たちがキムチと言われて思い浮かべる赤いキムチは、慶尚道、全羅道など朝鮮半島の南部地域を中心に18世紀中頃から庶民層を中心に普及し始めます。
それは、唐辛子の赤さによる呪術的効果を求めたためでもあったようです。当時、朝鮮半島ではシャーマニズムやアミニズムが一般に広く根付いていたため、赤色の持つ神秘的な力を食事にも求めたのです。
やがて、赤色の視覚的な美しさが見出されるようになり、庶民層や両班層(貴族)といった階層の違いや地域の違いを超え、赤いキムチが普及していきますが、朝鮮半島全地域にわたって普及するには20世紀半ばまでを待たなければなりませんでした。
このように、今日私たちの知る赤いキムチが登場したのは18世紀の中頃からですが、全域に普及したのは20世紀の中頃と、2世紀に亘ります。
4.白いキムチもある
キムチと言うと、唐辛子をふんだんに使った赤いキムチが最も一般的です。
ですが、最近日本でも徐々に認知されてきましたが「水キムチ」という赤くないキムチもあります。
これは、主に大根や白菜などの主材料にセリ、ニンジン、赤唐辛子、青唐辛子、ニンニク、白菜、ナシ、もち米粥などの副材料を加え、水に浸して発酵させたものです。何とも言えない爽やかでスッキリした酸味があります。とても美味しいです。冷麺のスープに用いられることもあります。
また、通常の赤いキムチから唐辛子だけを抜いたような、白キムチ(ペッキムチ)というものもあります。
5.キムチの素材
日本では白菜キムチ、大根キムチ、きゅうりキムチあたりが一般的ですが、本場ではわけぎや白ネギのキムチ、アルタリムと呼ばれる小さな大根を用いたチョンガッキムチ、大根の葉のキムチ、更にはぶつ切りのスケソウダラやカレイなど、実に200種類以上あるとも言われます。
余談ですが、韓国では最も一般的なポータルサイトであるネイバーで画像検索すると、ブドウやイチゴ、さらにはドリアンのキムチまで出てきます。
素材の数だけキムチが作れると言えそうです。
漬け材料には粗挽き唐辛子やニンニクのほかに生姜、大根、なし、りんご、わけぎ、せり、からし菜、イワシやイカナゴの魚醤、イワシやアミの塩辛、もち米粥などが用いられ、これらの材料の相互作用により辛いだけではない、複雑で豊かな味わいが生まれます。
6.地域別キムチ事情
南北に長く、また各地域同士が山に隔てられた朝鮮半島の特性上、キムチにも地域差が存在します。
以下、各地域別にキムチの特徴について解説していきます。
・ソウルや仁川をはじめとする京畿道(キョンギド)
塩辛くもなく薄くもない。漬け汁の量も少なくなければ多くもない。種々の材料を豊富に用いる。
塩辛はグチ、アミが主。
・全羅道(チョルラド)
全羅道は韓国の南西部に位置する地方で、ビビンバで有名な全州(チョンジュ)、ホンオフェ(熟成ガンギエイの刺身で世界で2番目に臭い食べ物と言われる)で有名な木浦(モッポ)などがあります。
朝鮮半島の穀倉地帯とも言われ、美食の都としても有名な地域ですが、南部に位置するだけあって温暖な気候なため食材が傷みやすく、塩辛や香辛料も他の地方と比べて多用する傾向があります。
一説によると、今の真っ赤なキムチも元は全羅道が走りだとも。
キムチはやや塩辛く、辛味が強くコクのある濃厚な味が好まれるようです。
漬け材料も同じく南部に位置する慶尚道(キョンサンド)と比較してふんだんに用います。
塩辛はアミ、グチ、カタクチイワシなどを塩辛汁にして用いたり、砕いて用います。特にカタクチイワシの塩辛が多いようです(以前、新大久保の韓国スーパーで購入した「全羅道キムチ」というブランドのキムチも漬け材料にカタクチイワシの塩辛が入っていました)。
慶尚道(キョンサンド)
同じく朝鮮半島南部に位置する全羅道のキムチとの差は、塩辛をよりふんだんに用いる事、より辛味が強い事。また、漬け材料の生姜の量は少ない事。
済州島
済州島は日本でもリゾート地のイメージが強いですが、独特で固有の文化を持ちます。
朝鮮半島の他地域と比較して冬も温暖なので、越冬用にキムチを大量に漬け込む習慣は本土ほど盛んではなかったようです。
咸鏡道(ハムギョンド)
現在は朝鮮民主主義人民共和国に位置する咸鏡道ですが、朝鮮半島北東部に位置するとても寒い地方なため、自然冷凍したスケソウダラのぶつ切りを入れたりと地の利を活かしたキムチが特徴です。
また、薄い塩水で浸してから漬けます。
塩辛はあまり使わず、唐辛子の使用量も控えめです。
そのため、慶尚道や全羅道のものと比較してマイルドな味わいになります。
平安道(ピョンアンド)
平壌がある平安道のキムチも、咸鏡道と同じく唐辛子や塩辛の使用量は控えめですが、咸鏡道よりは多く、漬け汁に牛アバラの骨を煮込んで脂を除去したスープを用いることもあります。
また、大根の水キムチはここ平安道が発祥と言われています。
黄海道(ファンヘド)
漬け汁が多い点では平安道や咸鏡道と共通しますが、やや味付けは濃いようです。
また、パクチーのキムチが名物で白菜キムチにもパクチーを加えるなど特徴的です。
塩辛はアミやグチを用います。比較的、京畿道のキムチに近いように思います。
江原道(カンウォンド)
江原道は朝鮮半島中部の東側に位置し、朝鮮半島で唯一南北双方に存在する道です。
北朝鮮側には元山(ウォンサン)、韓国側には春川(チュンチョン)や江陵(カンヌン)などがあります。
キムチの味付けは中間的ですが、魚介類が多く用いられます。塩辛はカタクチイワシやアミが主流です。
また、白菜より大根の栽培な盛んなので、他地方と比べて大根キムチをより多く漬けるようです。
細切り大根と自然冷凍のスケソウダラをふんだんに用いたチェキムチが名物です。
まとめ
日本でもすっかり定着したキムチですが、どのような歴史を持ちどのように作られるのかはあまり知られていないような気がします。個人的にはこれほど知れば知るほど楽しい、そして奥が深い漬け物もなかなかないと思いますね。
もっとキムチについてより知られると良いなと思います。